子どもの内的世界

十歳というのは、思春期、子どもから大人への過渡期がはじまる直前、子ども時代の最後の時期である。
千と千尋の神隠し DVD BOXのなかで千尋が出会った異世界とは、まさに十歳の子どもが見た「世界」である。「親と近所の仲良し」という自分中心、絶対安心・安定の世界が壊れはじめ、世界・世間とはじめて向かい合う。経験や理論にもとづく認識の枠組みをもたない子どもにとって、世間とは、まさにあの千尋が出会った異世界そのものにちがいない。
 そして、これはこの映画ですでに方々で論じられていることではあるが、ある小児科医の次の発言が、当を得ている。

 「子どもはそれまで親と一体化して守られていたのが、世界には他の人間たちがいることに気がついていくんです。家から学校までの通い道で、商店街があり、いろんなおじさんおばさんたちがいて、ちょっと意地悪だったり、機嫌が悪かったり、でも大事なことを教えてくれたりする。いろんな年齢の人がいて、それぞれまったく違った考えを持って動いている、それは自分ではどうにも出来ないことなんだけれど、そこで『世間』に出会って、対応するすべを学んでいく」
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 ある種の職人は、その技巧ゆえに、子どもには手が八本もあるようにみえるだろう。その職人、ガンコジジイは、両親のように話が通じなくて、子どもから見れば気難しい化け物なのだろう。そして「できないならはじめからやるな!」とか「はじめたら、最後までやれ!」とか、ぶっきらぼうに労働倫理を教えてくれるのだ。
 また、近所の強欲ばばあは、子どもの心象風景のなかでは、頭だけが異様にデフォルメされ、要求をちっとも飲んでくれない、魔女のように見えるにちがいない。そして空を飛んで何でもお見通しのように、昨日自分が買い食いしたことも知っているのだ。