火垂るの墓

端的に言えば「開くのに勇気がいる、歴史の日記」。開くのに勇気がいるから「忘れた」「知らない」ことにしてしまえば楽になる。そういった感覚です。
本作品は実際に戦争を体験した方の著書を原作にして製作されたため、噛み砕いて言えば日記のようなものです。
「日記」とは、個人がその日に体験した出来事をそのまま記すものです。そして読んだ人を感動させる、人に何かを伝えるために書くものではなく、飽くまで「事実をそのまま書く」ものです。
この作品は「作り話」でも「悲劇」でもない、ただの「日記」です。
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また、自分はこの作品を見て「悲しい」「可哀想」といった感想を持つのは、「少し違うかな」と思います。
決して否定はしませんが、その一言で終わらせられるほど単純なものではないのではないか、と感じざるを得ないのです。
本作品の強みであり、同時に弱みでもあるのは、日記のページをめくるだけで終わってしまった所です。
見たくもないページをめくったところで、救いも希望もなく終わってしまいました。
だからこそ、「向き合うのが辛い」。そして、それが紛れもない現実だと分かっているから、「余計に向き合うのが辛い」。
しかし、それがほんの数十年前にあった「現実」なのです。
ラストシーン、ネオンの灯りの中で生活する現代の人間は、自分たちが「忘れ物」をしていることさえ、知らないでいるのではないでしょうか。

この作品を視聴した後、すなわち「忘れ物」を受け取った後、きっと何らかの形で、何かが変わっていると思います。
作品を批判する人、否定する人は、既にそういった形で「忘れ物」を受け取っています。もし本当に受け取るつもりがないのなら「記憶にすら置かない」筈です。
本作品の目的が「現代人に忘れ物を届ける」ことなのなら、まさに製作者側の狙いはしっかりと決まったのではないでしょうか。
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余談ですが、「トトロ」との同時上映は、色々と感慨深いです。
同じ「忘れ物」なのに、二つのそれを対比すると…。